これがなかったらつまらない人生 オーダー服の達人
元縫製職人である代表伊藤と、職人さんの対談形式で行うインタビュー。今回は福岡県です。地元福岡で長くオーダー服の受注をされてきたeieiさん。素敵な工房になっているご自宅でお話を伺いました。
「わぁ素敵、素敵!」ってその言葉が返ってくるときが一番幸せな至福の時ですね。
普段はこちらでオーダーを受けられているんですね。
はい。ここで受けるか、お客様が来てほしいと言ったら、お客様の所までお伺いして採寸して、2回か3回仮縫いしておさめるっていう感じですね。
なるほど。だから応接室な感じが。
忙しい時は、応接側で裁断してパターンして、ができますからね。広いとやりやすいですね。
お客様が来られたり、広いと良いですね。
やっぱり人が喜んでくれて、着てくれた時に「わぁ素敵、素敵!着やすい。」って言っていただくと「あー良かったな。やってて。」って。その言葉が返ってくる時が一番幸せな至福の時ですね。
(佐藤)素敵なお仕事ですね。
本当に素敵な仕事ですよね。それでも一時、洋裁から離れたんです。子育てしている時は少しやっていたんですけど、やっぱり洋裁は難しすぎて大変だと思って10年ぐらいパッチワークにいったんです。
このパッチワークは還暦のときに作りました。
自分の人生で子供たちに作ったお洋服をまとめて、還暦のいまからスタートとしてこれを作ったんですよ。
やっぱり私の作っているお洋服はパッチワークが入っているから、独特なんですよね。
私たちからしたらパッと明るくなりました
ご自身はどうやって洋裁に入っていったんですか?
私は中学が服飾の系列で、元々カリキュラムで、日本刺繍・和裁・洋裁・染物が入っていた学校だったんです。
すごい。一式入っている。
私たちが入学した頃は和裁と洋裁だけだったんですね。その代わり授業時間が長いんです。一般の授業も含めて17時ぐらいまで勉強をしないといけなくて。
先生から「あなたは洋裁が上手だから、こっちに進んだ方がいいよ」って言われたので、6年生のときに自分で勝手に願書を出して、中学からそこに行ったんですよ。
ちなみに今おいくつですか?
69歳です。
nutteはお嬢さんが見つけてくださったんですね
ー(娘さん)本当に母が、この仕事をどう続けていこうかって悩んでいたんですよ。
私がnutteを見て、言おうか迷っていたんですが、「したい」と言うので。
私たちからしたらパッと明るくなりました。特に母は技術があるのにもったいないと思っていたところにnutteが出てきてもらえたことで、私たちにとっては凄く良かった。70歳になってこんなことがまさかあるとは思っていなかったので、そこは本当にうれしいです。
(佐藤)同じ世代の方から見て、今も仕事ができるって希望になりますね。一生出来るお仕事って女性にとって大事ですよね。
お友達が亡くなったり居なくなったりした時に、自分ひとりで家でも遊べるでしょ。
人形とかも趣味の世界で、遊びとして考えていたけど、お仕事になってますからね。2~3年待ちしますが作って下さいとか、名古屋からわざわざ依頼があったりもしました。
それからオーダーの洋服を発注下さるお客さんって、歓待してくださいますね。「今度あそこいこうや~」って仕事じゃなくても誘ってきてくれたりします。だからよくお客さんと遊びに行って、楽しかったって帰ってきますよ。
(佐藤)素敵ですね。お仕事しながらいろんな方とも交流も出来て。
洋服を作るからじゃないですかね。仲良くなりたいって思って下さるんじゃないですかね。
オーダー服の文化
どういうお客さんが多いんですか?
本当に様々ですね。他の人が着ていないものが欲しい人とか、同じものが2度とないものを好まれる方が多いですね。でも今は私たちのお客様はもう高齢なんですよ。
やっぱりおしゃれして出ていきたいって人が何人かは居ますよね。
カルチャーセンターとかいろんな所に出かける方。そういう方が何人か残っているぐらいですかね。
本当に今までしょっちゅう作っていた方が、1年に2枚作るぐらいですね。
だから本当に仕事は激減しています。前は3~4年待ちだったんですけど。
3年4年待ちですか?
そうですね。やっぱり手が掛かるから。
急いで縫っても20日はかかります。ビーズとか入れたら1か月はかかりますかね。
夢中になって寝ないで作ったりするので20日ぐらいで出来ます。
1着の服に、黒の布でも光沢があるもの、ないものを色んなものを組み合わせて、まずキルトにして大まかに作っておいて、その下に綿を入れるんです。それに裏打ちのシルクをあてて、
裏打ちシルクなんですか?すごい。
それを綺麗にしつけで止めていって、今度キルトしていくんです。それで裁断して、縫っていくんですけどね。縫う間に刺繍を入れていくんですけどね。
アパレル(既製服)ではない仕様ですね。
注文服は同じものを作れないですもんね。
50代の人はオーダーを作るっていう発想がないです。既製品で自分に合ったものを買って帰る。それもいいんだけど、1~2年着たら、だれてくる。そこのところの違いですよね。
無理な服を着たら、負荷がかかりますからね。
そうですね。例えば背中の丸い人が丸くない人の服を着たら、洋服にも無理がくる。そういうところじゃないですかね。
布をうちで染めかえたり、シルエットも着用するとすごく綺麗なんです。長く持ちますしね。
だからお客様もみんな作らなくていいんですよ。既製品だとどうしてもだれるんですけど。これはだれないんですよ。15年着てても、まだ着れますからね。こういうものを私は作りたいです。
でも娘がTVを見てなかったらご縁がなかったかもしれないです。娘がTVをみて、こんな素敵な人がいるよって。
ー(娘さん)3日ぐらい黙ってたんですけど。すぐネット開けて言って。
私たちは今の世代の人たちから注文を受ける方法がないと思うんですよ。だから(nutteのようなサービスは)やっぱり今の時代に合った方法ですよね。もう私たち世代はこういう風に代わりにしてくれる人がいないと出来ない。インターネットするときは仕事がはかどらないんですよね。
(佐藤)でも例えばネットだと福岡にいらっしゃっても東京の人の注文が受けられたりとか、そういう利点がありますよね。逆にnutteは職人さんの方でも家を出られない方が、家でお仕事が出来たりとか。そういう意味ではこれからもっと色々な出会いがあったり、発展していくのではないかと思っています。
そうですよね。すごい良いですよね。職人さんの知恵を向上させるって。それが一番nuuteを使おうと思ったきっかけですね。
死ぬ前の日まで針もって次の日パタンっと死んでいたらいい。
久しぶりにアパレルの下請けでない職人さんとお話をしたんですけど、楽しそうでいいですね。
楽しいですね。私なんかは特に洋服を作るのを楽しいって思いながら作るから嫌々じゃないから。
やっぱりお洋服は楽しいと思って作ったのと嫌々と思って作ったのは出ると思うんですよ。その人の気質が。
だから本当に「お仕事を楽しい」とか、「これをやらせてもらって有り難い」って思う気持ちで縫うのと、「しょうがない、来たから縫っちゃえ」っていうのとは違うと思うんです。
僕はあれですね。縫うの楽しいけど安いって思いますね。(笑)
やっぱりそれはあると思いますよ。一番に来るのはお金ですからね。
あんま安いとテンション下がりますよね
やっぱり楽しく縫っていると、きっとその気持ちが作品に入るんじゃないですか?
可愛いものを縫ってて、『これをどの子が着るんだろう』と思いながら縫っているとわたしのエネルギーが(服に)入ってくるんじゃないですか。それが大事だと思います。
安いからこう高いからこうは確かにありますけどね。(笑)
これ1枚縫ったらもっと遊びに行くぞって。
どれだけ自分の魂を込めて縫えるかは、持って行ったときにお客様に伝わると思うんですよ。だからみんなが喜んでくださるし、嫌々縫っても嫌々ながらしか渡せないですしね。
私はオーダーしかしたことないから既製服が分からないんですよ。その世界がどうなっているか。
でもお洋服を作るっていうのは、好きな人はそれがあるから楽しいんじゃないですかね。お洋服はやっぱり楽しいですよね。
私から見たらこれがなかったらつまらない人生ですよね。
こうしてnutteさんと出会いがあってご縁が繋がるといいなと思っています。
(佐藤)一生現役でいるという感じですか?
そうですね。死ぬ前の日まで針もって次の日パタンっと死んでいたらいい。それはいつも思います。病気をしないで、ずっと仕事ができたら幸せだろうなと思いますね。能力は落ちていくと思うんですけど、落ちたら落ちたなりに今度何かできると思うんですよね。今が最高にいいんじゃないですかね。
取材後記

『ファッション通信』が好きでセントマーチンで学んだ経験もあるお嬢さんと一緒に出迎えてくれたeieiさん。福岡の中心街で綺麗なお洋服を着ている人がいるとずっとついて行って見てしまうと言います。中学から学び、70歳になる今も生き生きとお仕事をされて、お手本にしたい職人さんです。
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