国家資格一級和裁士を取得。時代劇が好きで着物はずっと好きだった。
縫おうかなぁと思って・・・
お仕事として和裁をやっていらっしゃるということですが、どのようにしてその道に入られたのでしょうか。
実は家庭科の成績も別によくなくて(笑)
大学も全然関係ない 人間学部というところで、就職したのが着物を売る呉服の商社だったんですけど、縫おうかなーと思って・・・縫うほうを探してそっちに修行にはいりました。
百貨店のようなところで販売される着物を縫っていらっしゃる工房で修行されたんですか。
そうですね。百貨店さんや街の呉服屋さんから、反物と寸法が和裁所に送られてきて、それを縫ってスキルアップをして、試験を受けて資格を取るという、そういう感じです。
その修行は何年くらいやっていらしたのですか
7年くらいやって1級までとって、今独立して今年5年目になります。
そもそも和裁をしたいというのはどういうきっかけでしたか
なかなか触れる機会もないじゃないですか
むかし、着るのは何回か着てたので。あと洋服を縫うという感覚が私にはあまりなくて。機械系が・・・早く動くのが怖くてミシンとか使えないので。(笑)
着物は時代劇が好きだったのでずっと好きだったんです。ちょうど就職先をさがしているときに、入りやすかったので呉服商社に入社して、そこで友達になったのが呉服屋のお嬢さんだったんですね。そこからこういう仕事があるよって聞いて、「へぇー」って。こういう仕事したことが全くなかったので、ちょっとやってみて続くようなら続けようかなって。そしたら意外に続いちゃったんで、そのまま縫ってます。
だいたい修行された方っていうのは何年かしたら独立される方が多いんですか
いや、女性ばっかりなので基本的に結婚して一度離れてしまう人が多いですね。子育てをして、子どもがある程度手を離れたら帰ってくる、帰ってくるというか会社から仕事をもらって家で縫うか、会社に5時までとかって決めて週何回って来る人とか。
それかもう完全に離れて呉服屋さんに入っちゃうとか、販売とか企画のほうにっていう人もいますし、もしくはずっと和裁所の中にいて先生までいくとかですね。
1級の和裁士というのは特に流派などはなく同じ技術を持っているんでしょうか
同じ試験をパスしているので、そこまでの技術はあるよっていう目安にはなります。
出来上がりはみんなちゃんと同じなんですけど、習う先生によっては始末のしかたが違います。
若い方が着物を縫っているというのは意外なのですが
そうですね。逆に70歳くらいの方だと縫ったことがないって人が多いです。戦争のころにいい年齢の方は勉強できなかったみたいですね。
男仕立てと女仕立てがあって、正座して機械でひっぱって縫う人と、私は先生がこのやり方だったので<男仕立て>であぐらをかいて足で持って縫うんですけど。
これをやってから家庭科の時どうやって縫ってたのかもうわからなくなりました(笑)。
最初はずっと運針だけを、何も縫わずにずっと練習します。
ある程度早く縫えないと仕事として成り立たないですし、1枚に何日もかけてるとだめなので。
大体1枚で2日くらいですね。
始めたころは姿勢が辛くて、17時くらいに終わるじゃないですか、そしたらしばらくは動けないんです。
浴衣の着方は母や祖母から、帯はお茶の先生に習いました。
工賃はどのくらいですか
そんなに高くないですよ。
そうなんだ。すごく高いイメージあります。でも生地が高いですもんね。
手描きとかだとほんと高いと思います。あとは最近プリントですね。ポリエステルの着物とかは印刷ができるらしいので安いです。
絹は熱いコテをあてても溶けないけど、ポリエステルは耐久性が低いから下手にかけると生地が溶けちゃったり、生地がくっついちゃったり アイロンもすごい温度ひくくしなきゃいけないのでピシっと一気に仕上がらないですね。
1か月でどのくらい縫えますか
だいたい11~12くらいですかね。10着はやろうと思っています。
会社のは会社に行って次の仕事をもらうし、他のところは納期がいつまでってのが来るのでそれで調整して。
ずっと仕事があるっていうのはいいですね。自分で選べて途切れない。
会社とつながってる限りは途切れないですし、何かあったときにはフォローもしてくれます。
自分で一人でほかのお客さん探してやろうと思うと、ちゃんと宣伝しないとだめですね。
こちらはいま何を作っていらっしゃるんですか
これは今羽織を作っています。
着物には必ず背縫いがあって、1歳とか生まれたての子どもの着物は背縫いがないんです。背骨みたいな意味があるそうですよ。
羽織っていうのは一番上に着るものですか
襦袢をきて、着物を着て、羽織を着るかコート(道行)を着ます。
道行はここ(襟)が真四角になってます。丸いと都襟(みやこえり)。
コートはある程度、何年かやらないとやらせてもらえなくて、この都襟が1級の試験なんです。
曲線だから難しいんです。真四角で縫った方が楽なので。
2級までは普通の着物が試験。普通の着物を何時間で縫う、みたいなのなんですけど、1級までいくと襟型とかあとは袴の腰板とか。ちょっと特殊技能になっちゃう。だから1級まで取らない人も結構います。2級で仕事十分できるので。
試験が近くなると、会社にいくと若い子たちが頑張って練習してますよ。
例えば結婚式とかで、タキシードとか来てる男性とかいるじゃないですか。あれは着用のルールからしたらすごくおかしなことらしいんですけど、モーニング、イブニング黒いジャケットにストライプのパンツというのがルールみたいで、そういう着方のルールが日本ではおかしいと。
それと同じような感じで、着物のルールで街ゆく人が「全然ちがってるな」みたいなことってありますか
格みたいなのはあるので、小紋の全体の柄のものは結婚式とかは着られない。結婚式でお母さんが着てるのって真っ黒で下の方だけ柄があるじゃないですか。留袖(とめそで)というんですが、ああいうのが一番の正装です。それが既婚の人の礼装で、未婚だったら振袖とか、そういうのには帯は西陣とかのぎらぎらした帯を合わせること、とか。
難しい・・・着るのも一苦労ですもんね。
最近は着る人が楽に着られることを考えてるので着方も人それぞれですけどね。
ぴしっときたほうが、一回着たらちゃんと着た方が着崩れしないのですが。
着物の着方ってどこかで習ったりするんですか
浴衣とかは母や祖母から教えてもらいました
ちゃんとした着物と帯は、ちょうどお茶を習う機会があったのでそこで習いました。先生にお茶だけじゃなくて(笑)。
ネットで和裁の依頼ができるのはすごくいい
ネットで縫製のお仕事を受けるってことに関してはどう思われますか
全然抵抗ありません。
今ネットが入りやすいですから。若い人とかもね。まずネット調べるじゃないですか。そこで和裁の依頼ができるっていうのはすご良いと思います。
0から作る場合はどうやって依頼したらいいですか
反物と寸法で縫うことは可能です。基本は身長とゆきの長さ、バスト、ヒップを採寸してもらいます。
あとは着慣れてる着物がある方は、私はその着物を送ってもらって仕立てるということもできますね。
新しく作るのはそうやってできるけど、寸法を直すのは、物を持ってきてもらわないと、あけてみないとわからない。
裄(ゆき)を出してくださいっていわれても、縫い代がないですっていうこともあるのでそれは難しいかなとは思います。
昔は呉服屋さんに持ち込めば、呉服屋さんに知識があったので調べてくれてできるできないっていうのがわかったんですけど、今呉服屋さんもどこまでわかってるのかというと微妙ですからね。
着物の布の名前もわからない 普通に大学を卒業した男の子が売っている、みたいな。営業さんとかも。結局(着物を)みんな着なくなっちゃったんでね。それはしょうがないですね。
洋裁の方のなかでも和裁に関心を持ってくれる方がいるといいなって
今後の夢とか展望はありますか
夢ですか・・・。
もうちょっと洋裁の知識もほしいですね。色々できてもおもしろいかなって思うので。
最近着物をリメイクしたりして<着物として着ない>って方もいるじゃないですか。そういうのって洋裁の知識ないと出来ないし、パターンとか学べるようなら学んでみたいなって思います。
和裁も私もまだまだなおすところもいっぱいあるので、そっちもちゃんとやりたいしっていう感じですかね。
まずは今の技術を磨きながら、いずれ洋裁の技術も取り入れてってって・・・職人の鏡ですね。技術を追い求めていくって感じですか。
でも洋裁の方のなかでも和裁に関心を持ってくれる方がいるといいなって思います。
洋裁の本とかで着物を縫うと、パターンみたいな型紙ですもんね。
そのへんはうまい取り方とかがあるので、そういうところから共有していけたらミシンで縫う人も楽かなって思います。
友達がデザインやっていて、『和裁士はじめて会った』って言われて色々聞かれるんですけど、和裁の技術自体が人にあまり知られていないので、洋裁の方がそれを知って取り入れて何かを作っていくっていうのはすごいいいことだなって思っています。
佐藤 着物はイメージとして手が出しにくいという所もあると思うんですがご自身はどう思われますか
だからこそあんまり工賃をあげてないんですけど。どうしても高いと『せっかく作ってもらったけどあまり着られない』とかってなっちゃうと着物としても困っちゃうし。
ある程度の値段でなおしたり、縫ったりしてあげたほうが何度も着てくれるじゃないですか。私はその方がうれしいですね。
和裁業界の今後について何か思う所はありますか
どうしても人が残らないですよね。
若い子はどんどんやめてっちゃう。私はスタートが遅い方で、みんな高卒くらいから始めるんですけど。
いちおう最低2年はいないと2級までとれないんですが、その間がやっぱりしんどいんですね。
毎日毎日ひたすら縫うわけですよ。そうするとやっぱりみんな人生を考え始めて、同い年の子はみんな遊んでるのに・・・ってなっちゃってどうしても5年もいられなくて辞めちゃう子も多いんです。
だから育つんだって言われたら、ああそうですよねって感じだけど、もうちょっとうまいこと育てる方法はないのかなとは思います。
拘束時間も長いですし、納期があるので、その仕事を終わらせるために夕食後もう一度作業場に来て仕事するとかもふつうになってきます。
修行して寮とかでやってる子たちもみんな自分の時間が全くなくて、疲れ切ってやめていくみたいなのも多いですね。
結婚しても続ける人もいるけど、工賃が安くて時間が長いので「なんでなんだ」っていうのが家庭内で起きて、理解が得られなかったり。
『こんな遅い時間に帰ってきてそれだけしか稼げないんだったらほかの仕事しなさい』ってなっちゃうので、それで辞めてしまう人もいますね。
佐藤 一級和裁士が憧れられる職業になって、カメラマンや美容師のアシスタントのように『あんなふうになれるんだから』っていう修行の5年になるといいですね
そうですね。中に入っちゃうと中のことしかみえない。
例えばほかに活躍してる人がいても全く見えないですからね。
先生はすごいけど遠すぎるんで。世に顔や名前が出てる人が少ないですからね。着物って結局は縫ったものじゃなくて柄とか見られる、デザインというのはそこがメインで、作る方はなかなか注目されないお仕事なので。
じゃあご自身がこれから和裁界のヒロイン的な感じで露出が増えたらいいですね!
いえいえいえ(笑)。
取材後記
7年和裁の修行をされて、数少ない1級和裁士の資格を取られたnagiyaさん。実際に縫っているところを見せて頂いたら手で縫ってるとは思えないスピードでしかも真っ直ぐ縫われるのでほんとうにびっくりします。
ご本人はサバサバした飾らない女性。まさにこれからの和裁界で注目を浴びる人になっていくのではないかと思われました。
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